「ロスト・イン・トランスレーション」★★★★(5段階評価です)

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

 東京を訪れ、同じホテルに滞在する二人のアメリカ人。CM撮影のために来日した中年のハリウッド・スターと、カメラマンの夫の仕事に同行してきた年若い女性。東京という異国の都市に翻弄され、孤独感を味わう日々の中で、ふたりは互いの気持ちを理解し合い、惹かれ合って行くのだが…。

 「日本の描き方がステレオタイプでね、イマイチ」と友人に事前に聞かされていました本作品。ですが、日本云々という前に、会話がとても素敵だったのです。決してストレートに核心を突くことなく、しかしその周辺をぐるぐる螺旋状に巡っているような会話。単純明快を良しとするアメリカの映画とは思えません。主人公の二人、おそらく一度も本心を言葉にすることがなかったと思います。あくまでも、何気ない会話やしぐさを通して表現する、非常に”ニュアンス”で見せる映画なのです。
 日常に埋もれている人生のひずみが、アメリカ人にとっては余りにも異文化の都市・東京の中に投げ込まれた時に、くっきりと浮かび上がってくる。孤独感や人生への迷いの中で、互いの気持ちを理解し合い、寄り添っていく二人が、情感豊かに、しかしあくまでもさりげなく、控えめな描写で描かれていて、もうその点だけで満足だったのでした。
 確かに、日本の描き方はとてもステレオタイプ。メガネ&グレースーツの小男たちで主人公を囲ませたり、シャワーの取り付け位置が異様に低かったり…。80年代のジャパン・バッシングの時期から、欧米の日本へのイメージって変わらないものなのだわと感心してしまうほどです。でも、ステレオタイプな描かれ方は、なにも日本に限ったことではなく、登場する”オバカな”ハリウッド女優や、そしてむしろ、主人公2人の妻や夫に至るまでの周囲全てである、という印象をもちました。主人公たちの迷いを引き立たせるため、その落差を激しくしているのではないかしらん。
 そして、カメラマンの妻を演じたスカーレット・ヨハンソンが、すごくハマっておりました。「真珠の耳飾の少女」の時もそうなのだけど、彼女は”フツ−っぽいがニュアンスのある”役の印象が鮮烈。レッドカーペットに登場する時の、あの過剰に作りこんだ熟女風の姿はギャップ狙い?