大富豪の夢

 一週間の夏休みを取得し、旅に出て参りました! 行き先はラスベガス。街全体が遊園地のような、各種ハリボテの立ち並ぶ、ギャンブルとショービズの都。社会人になって初の一週間フル休みということもあり、いそいそと旅立ったのです。
 しかし。行きの飛行機が成田で2時間の遅れ、LAでの乗り継ぎ便にはもちろん間に合わず、現地に到着した時にはトータル4時間の遅れ…。午後から街を散策の予定が、既に夜だったのでした。ガックリするのも束の間、降り立った空港にもスロットマシーンが並んでいて、さすがはギャンブルの本拠地といった趣。浮き立つ心。さあ! 大富豪になれるチャンスがここに!
 まずは街中を散策したのですが、いやー…すごい所です。しょろんの滞在ホテルは「ルクソール」という古代エジプトがテーマのホテル。ガイドブックで、黒いピラミッド型の建物の写真は見ていたのですが、巨大なスフィンクスはあるわ、黒ピラミッドの中は一面カジノフロアで古代神殿が再現されているわ。よくぞここまで、という徹底ぶりです。
 しかし、それは序の口。いわゆる観光地としてのラスベガスは、「ストリップ」という目抜き通り沿いにあらゆる施設が集中して立ち並んでいるのですが、宿を出れば、隣には中世の城があり、その向こうには自由の女神とNYのビル群が六分の一のスケールで再現され、ゴチャゴチャの巨大ハリボテホテルが延々と立ち並び、更に、各ホテルのエントランスの巨大なビジョンには、自慢のショーのコマーシャル(またハデなのだこれが。メリハリボディーの美女軍団やマジックショー等等)が延々と流されている…。目のくらむような光と奇妙な造形の渦、それがラスベガス。砂漠の街なので、空気は熱を帯びていますが湿気は少なくカラっとしています。旅行会社の人は何度も「シャワー後にはクリームを必ず塗ってくださいね。とても乾燥していますから」と念を押していました。
 チェックインを済ませ、さっそく街へ繰り出したしょろんたち。しっかし…旅行会社の人がまた曰く「パっと見、遠くまで歩いて行けるように思えますけど、実は離れてますからね。ストリップの端までは歩いて1時間半くらいかかりますよ」、との通り、建物があまりに巨大なため、隣のホテルまでが遠いこと。そもそも、ホテルのフロアを抜けるまでがひと苦労なのです。これまた旅行会社の人から、主要ホテルの内部地図を渡された理由がわかりました。迷うのはあまりに簡単です。
 アメリカは広い、そして徹底振りがハンパじゃない。道を歩けば、陸上競技場くらいの大きさの人造池に、間欠泉のような噴水が吹き上がり、パリのエッフェル塔凱旋門があり、ホテルのロビーに足を踏み入れれば、そこには生きたライオンが飼育されている…! クラクラしてきます。そして、行き交う人々の手には1リットルくらい入るんじゃないかという巨大な紙コップ。人も巨大。笑い声からリアクションまで全てが巨大。「オー!マーイ!ワーハハハハ!!」。服の色もハデ。異国情緒たっぷりなのです。
 ラスベガス名物のひとつが"バフェ"。いわゆる食べ放題バイキングです。このバフェで人を集め、行き帰りにカジノで遊んでもらおうという趣向らしく、各ホテルが様々に趣向を凝らしています。ご飯にしようと訪れたのは、"パリス"というパリの名所を再現したホテルのバフェ。日本でいうヴィーナスフォートのように、フロアの天井には青空が投影され、パリの街並みが再現されている中にオープンカフェ風のバフェはありました。入り口でお金を払って、いざ食べ放題! …肉。…カニ。…チーズ。…サラダ。…ブラウニー。…ケーキ。甘いものはトコトン甘く、塩辛いものはトコトン塩辛い。全てが"大味"、ウリはボリューム。…と、ケチをつけつつも、まずは食べる食べる! グレイビーソースのかかったマッシュポテトやローストビーフに、お肉の国に来たのだなぁと感慨ひとしおです。ま、満足…。
 そして、お決まりのカジノ。MGMホテルという、ラスベガスの中でも最大級のカジノフロアに行ってみました。…フロアが…見晴ら、せ、ない…。光と電子音の渦、そしてバーでは定時?になると、スタッフがカウンターに飛び乗ってタップダンスのようなものを狂おしく踊りまくる…! ギャラリーは大喝采。しかしカウンターに座っていたおじさんは、目の前で踊るミニスカートのスタッフを見上げるわけにもいかないのか、身じろぎもせず所在なげ。とにかくハデ、ハデ、ハデなのです。享楽的な雰囲気を楽しみつつ、しょろんもギャンブルに挑戦してみました。カード? ノン。ルーレット? ノン。素人なそんなものに手出しをしません。ひたすら、スロットです。
 しかし、時にウン億円という当たり金額を出して話題をさらうこのスロット。しばらく続けるうちにわかったのですが……"ヒマ"。ヒマ…。ひたすら、ボタンを押すしかないからです。ポチ。…ポチ。繰り返すうちに、自分がどんどんロボットになっていく感覚を味わったのでした。カクテルガールに飲み物を持ってきてもらい、チップを渡すと大喜び! なんて情景に心洗われる…。結局、しばらくでスロットには飽きてしまい、ギャンブルに熱中する人々を観察することに。
 陽気な観光客がほとんどですが、中には寡黙でいわくありげな男の人や、海外セレブのスナップでしか見たことがないようなカクテルドレスをまとった、恐ろしく洗練された様子の黒人美女がいたり…。お金持ちからアメリカンドリームを狙う若者まで、人種も国籍も様々な人がテーブルを囲んでいます。言葉も色々。時々、テーブルの一角で大歓声が上がったりして盛り上がっています。うーん、楽しい! ここは24時間こうなのです。大金ゲットという、わかりやすくも魅力的な夢を追いつつ、華やかな雰囲気に盛り上がり、楽しく楽しく時間を過ごせるのです。ギャンブルというと、大金を失った人が深刻な表情で…あるいは裏社会ならではの後ろ暗さが感じられて…など、ちょっと想像していましたが、華やかなエンターテイメントになっている印象を受けました(聞いた話によると、ダウンタウンのカジノは割とあやしげだそうですが)。人がみんな、とっても楽しそうなのです。非日常そのものの街並みやカジノの雰囲気、溢れるショーなどのエンターテイメント。ここは、街全体がディズニーランドで、かつひょっとしたらとんでもない幸運を掴めてしまうかもしれない夢の街! そんな気分になれるのでした。
 そんなこんなで、あっという間に過ぎたラスベガス滞在。ゼヒまた行きたい! 芸術性の高いサーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユのショー「ミスティア」も素晴らしかったし、バフェの品数豊富な朝ご飯にも大満足。太るリスクと、富豪になる夢は夢で終わったことを除けば楽園なのでありました。…いや。次は夢を現実にするために…。