「モロッコ」★★★★(5段階評価です)

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  1930年アメリカ映画。北アフリカの砂漠の国モロッコ。灼熱の太陽が照りつける街に、歌手アミー(マレーネ・ディートリヒ)が流れついた。彼女と駐屯中の外人部隊兵士トム(ゲイリー・クーパー)は惹かれ合う。「女を信じたことのない」男と「男を信じられなくなった」女の恋。地元有力者ベシエールがアミーを見初めたとき、トムは砂漠に発って行くのだが……

 マレーネ・ディートリヒに初お目見え。
 モノクロームの映像の中で、退廃的で甘さのない、それでいながら華やかな存在感のディートリヒは際立ってました。初登場のシーン、画面の端にちらりと姿が見えただけで主役の登場なのだと観る側にはわかってしまう。男装をしてタバコをふかし、しゃがれた声で歌うシーンは絶品でした。
 そのディートリヒが演じるのは、強さや脆さ、相反する要素を内側に同居させ常にせめぎ合わせているような女性。舞台の上では敢然と振舞うのにバックステージでは不安げ、力なく微笑むかと思えばグラスを叩きつけて割ってしまう激しさを見せる。その拮抗が彼女の人生に波乱をもたらし、疲れさせ、モロッコに向かわせたと思える程です。一方でそれに魅せられるベシエールのような男もいたりして。
 私自身はベシエールが印象に残りました。トムが去った後、彼はアミーと婚約する。しかしそれは、彼女の心が自分にはないことは承知の上で見守りつづける不毛の愛。婚約披露パーティー、知人が顔を揃える席上でアミーは外人部隊の帰還を知り飛び出して行ってしまう。それでも彼は「妻のためなら何でもします」と言い放ち、自ら車を運転してトムが負傷し入院したという街にアミーを連れて行く。あぁ救いがない。
 有名なラストシーンも壮絶。ついに心を決めるアミー。しかし、歩き出した彼女の行く先もまた、茫漠とした砂漠の広がりで……。とことん不毛な映画なのです。それだけに、情熱の美しさがはかなくも際立つ作品でした。