「アメリカン・ビューティ」★★★★(5段階評価です)

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 1999年アメリカ映画。一見、ごく穏やかなアメリ中流階級のバーナム家。しかしその内実は、無気力サラリーマンの父、出世と物質的な充足を盲信する母、コンプレックスでがんじがらめの思春期の娘で家庭の雰囲気は冷め切っている。しかし父親のレスター(ケビン・スペイシー)はある時娘の友人にひと目惚れ。胸の内に久々に火が点るのを感じ、自分の信じる幸福を手に入れるため邁進し始める。同じ頃、隣家にはこれまた、厳格な軍人の父、従順で無気力な母、サイコ趣味の息子の一家が引っ越してきて、次々と波乱が巻き起こり……。

 アメリ中流階級の抱える様々な病理の総棚卸しのような映画。登場人物はそれぞれに病んでいて、一見その中の誰かに感情移入が出来そうなのだけれど、そうするには何だか突き放された描かれ方。「あぁもう、そこでそんなこと言ったら(したら)おしまい」と観る側が青ざめるような、人と人との深い断絶を示すシーンが大連続なのです。多分、他のファミリー映画ならクライマックスにしか使わないと思う。
 茫漠としながらも表面上は平穏だった日常生活は、それぞれが自分の考える幸せを追求することで崩壊していきます。半径5メートルくらいのことを題材にしているので、「あなたの暮らすこの世界は実はこんなにも荒涼としているのですよ」と耳元で囁かれるような感覚もあり。コメディタッチで笑えもするのだけど、その笑いはどうにも乾いたものでブラックな気分が広がって行きます。まさしくブラック・コメディ。でもその毒は私にはちょっと強すぎたようです。全体を通して出口のない閉塞感が残って、久々に映画を観て素で鬱になる体験をしたのでした。カップルや家族で観るのはおすすめしないのです。
 話の運びはとても巧みです。そもそもオープニングから「この1年後に僕(語り手は一家の父です)は死ぬ」という、何やら不穏な事態の予告があるので引き込まれます。「素で鬱になる」というインパクトの強さも含め、アカデミー賞受賞も納得できばえ。でも、このテーマとは。アメリカはきっと自分達の住む世界に嫌気が差しつつ懐が深いのです。